瀬戸内文化経済圏 FOOD SUMMIT
2020年11月22日、デザイン・クリエイティブセンター神戸にて「瀬戸内文化経済圏FOOD SUMMIT」が行われました。もともと、瀬戸内の料理人たちによるポップアップレストランを囲みながら開催される予定でしたが、ふたたびのコロナ感染者急増により無観客セッションに変更されました。
開催前日の変更でしたが、結果的にかえって親密な情報交換の場となった当日の様子をこちらでレポート。当日、昼に行われた「食文化による郷土づくりカンファレンス」に登壇した『自遊人』編集長の岩佐十良さんらも話に加わって、未来に向けた郷土の食を考えるキーワードがいくつも飛び出しました。
発言いただいたみなさん:
小西智都子|香川|SETOUCHI SEAWIND
二宮敏|愛媛|NINO
津田和俊|山口|山口情報芸術センターYCAM主任研究員
白桃薫|徳島|神山町役場職員、フードハブ・プロジェクト農業長
山田隆大|神戸|神戸市経済観光局農水産課食都担当課長
服部滋樹|大阪|graf
岩本順平|神戸|DOR
岩佐十良|新潟|雑誌『自遊人』編集長
※それぞれのプロフィールはレポートの最後にまとめて掲載
|自給自足とトレードで成り立つ島文化
服部:瀬戸内経済文化圏で各ローカルの価値観をシェアしてきたけど、今日は食についての話。目の前のことだけじゃなくて、5年後、10年後、30年後のビジョンみたいなことも聞きたいし、次なるヒントを出していけたらいいなと思います。
岩佐:昼のカンファレンスでも島の話題が出てましたけど、島はその中でひとつの暮らしが完結していて、たとえば、地産地消やローカルガストロノミーを追求していったときにたどり着くのはやっぱり島だなって思うんです。島の暮らしが注目されてますけど、人間の本来的な暮らしやコミュニティを島に見ているんだろうなと思います。グローバルなコミュニティが当たり前の東京のような場所で暮らしている人が、すごく狭い島のコミュニティを目指したいと思う、そこに今の世の中が行き詰まってるポイントやこれから考えなければいけないことが詰ってる気がしますね。
小西:瀬戸内についていえば、内海でそれぞれの島はとても小さいんです。常々、島を巡っていて思うのは、確かに自己完結はしているけども、島の人たちにとっては海こそが自分たちのテリトリーだという意識があるからむしろ広がりがあるんですね。つまり、自給自足ということに加えて、トレードの文化なんだと思います。
岩佐:なるほど、そうですね。
小西:たとえば、漁師がいない島もあれば、湧き水のない島、お米がとれない島もある。そうすると自分たちの島にないものはまさに物々交換のような形で生活してきているから、そこが面白いところなのかな。
服部:お米とお魚を交換するような暮らし。そこには健全性が見えるよね。
岩佐:瀬戸内はさらに海賊の文化もありますもんね。
小西:そうなんです。それを成り立たせている船の文化があります。
|ローカルの価値を見出すのは誰か、そして種の話
二宮:僕たちは愛媛に暮らしていると、島を意識することがあまりなくて。島の暮らしを考えるという機会がなかなかない。僕たちの同世代は、地元で暮らすことを幸せに感じていますし、特に東京的な部分に憧れも抱いてないけど、東京などから求められるものの評価は、地元での評価と食い違ってたりする。そこにこの数年、悶々とするところもあって、島や山に通ったりしながら何かできることはないかと考えています。
服部:岩佐さんは、新潟の「里山十帖」*で地元の野菜をたくさん扱われてますけど、里山十帖ができるまで地元の農家の人たちの暮らしはどうだったんですか。
*自遊人が南魚沼市にオープンさせた温泉宿
岩佐:農家の人たちの暮らしは何も変わってないです、たぶん。うちの場合、農家さんの言い値で全部買いますから、山盛りのかぐら南蛮に請求書がついて届けられたりして(笑)、それなりにお金を払っていますけど、彼らはそれで売り先が増えたというよりも、今まで地元で誰も価値を見出してくれなかったところに、ちゃんと価値を見出してくれてありがとうという感覚なんだと思う。
服部:そうですよね。
小西:瀬戸内の島の話でいえば、自分たちで育てたものは自分たちで消費して、島の外から来たお客さんにはわざわざ買ってきたものを出すというところがまだまだ多いです。だから、海鮮丼にイクラやサーモンが乗ってたりします。自分たちがつくってきたものは価値が低いという先入観があるんですね。そこに料理人さんでもいれば、島の人たちがつくってきたものを「それいいですね、分けてよ」って働きかけが始まるんだけど、島の人たちだけではその価値が見出せない。
岩佐:実は西日本って、伝統野菜を自家採種して種をつないでるという事例がほとんどなくて、島にもほとんどその例は見られません。夢をこわすようだけど、島こそ自給自足から遠く離れた暮らしになりつつありますよね。外からいろんなものが入ってきて。新潟や山形の鶴岡市などでは、種を自家採種する文化が当たり前に残っています。伝統野菜を守ろうなんて宣言しなくても、勝手に、当たり前のことして守られてきました。
岩本:品種も全然違いますか。
岩佐:品種も違うし、味も全然違います。ナスでいえば、新潟には〇〇ナスって土地ごとに呼ばれているものが100種類以上あると言われていて、県が認めているものだと23種。自分たちで種を採って、それを植えるという状態が続いてるんです。そして、長年これが外向けには出荷されてこなかったけど、「里山十帖」で使って喜ばれてる様子を見ることで、自分たちがやってきたことが間違ってなかったんだという感覚が生まれてるとは思います。
服部:そうかぁ、種が周辺の文化を残すんや。種を受け継いでいけば、ただ品種を残すだけじゃなくて、暮らしや料理など周辺にある文化までが受け継がれていくことになるってめっちゃいいですね。
岩佐:そうそう。このナスだと漬物がいいか、こっちのナスなら蒸したほうがいいよとか。その地域ごとの食べ方が当たり前のこととして家庭にも根付いていて。
服部:山田さん、伝統野菜の種って神戸の状況はどうなんですか。
山田:民間で伝統野菜保存会ってやってられる方はいますけど、それぞれの種を誰がどう受け継いでいるかが一元的にはまとまってはないですね。もちろん、個々に守られている方はおられると思います。
岩佐:在来作物を守ろうという動きはそれぞれの農家に任されてるのが日本の現状ですよね。
山田:そうなんです。
岩佐:しかも、守ろうとしている人たちって、地域の農業従事者からすればちょっと変わり者みたいな扱いだったりもして。守るという言葉よりはつなげるという感覚で、それが生活に根付いているのが普通だと思いますけども。
山田:今でこそ在来種の種を増やそうという動きも出てきましたけど、そもそも残された種が少ないという現状もあります。
岩佐:たとえば、瀬戸内だったら家で干物を干すということをやってますよね。
小西:島では普通の風景ですね。
岩佐:それって瀬戸内らしい文化だと思うんです。今の季節、新潟だったら軒先に大根や干し柿がずらっと並んで、越冬の準備をする。瀬戸内でいえば、たくさん獲れた魚を干物にする、そういう文化だと思います。
小西:そう、魚食ですね。
服部:けど、種はなんで残されてこなかったんやろう。そっちが気になる…。
|種を守ることをDNAから考えてみれば
津田:僕らYCAMでやってるのは、種もそうなんですけど、細胞の中のDNAを抽出して、読んで、その配列、生物としての情報を調べるということ。これを小学4年生から学べるワークショップとしてやっています。
一同:へー!
服部:遺伝子を操作することで在来種に戻るかもという話も出てくるわけですよね。
津田:そうですね。品種改良されたものをまたもとに戻して、在来種と同じものにしたとして、その組み換えの組み換えから生み出されたものは果たして在来種なのか。そもそも自然の中でも遺伝子レベルでは組み換えは起こっているので、人為的なものと自然なものというのも区別が難しいという話になってきます。
服部:種を守るということとパラレルに、DNAレベルの話もやっていけたらいいよね。
津田:種でいえば、ノルウェーに世界中の種子を冷凍保存しているスヴァールバルという場所がありますね。一方で、バイオリサーチの話としてよく言われることですけど、この15年間で10万分1くらいまでコストが下がっていて、2000年頃に100億円かかった解析が、今は10万円でできるんです。つまり、研究者じゃなくてもDNAを読んでそれをアーカイブしていくことができる。
服部:なるほど。
津田:それで何が変わるかというと、たとえば、固有種、在来種という概念も変わってくると思います。1000年前からその土地にある種だとしても、DNAレベルでいえば何億年とかの単位で捉えることになってくるから。
服部:そもそも生物学的になぜそうなのかを振り返ってみることで、新しい道を見つけることもできるんやろうな。ちょっと違う話になるけど、デジタルな方向でいえばフードプリンターとかもあるやん。
二宮:フードプリンターって何ですか。
津田:3Dプリンターのように、食べ物を自由に成形できるんです。たとえば、昆虫食としてコオロギのタンパク質が注目されてますけど、コオロギを素材に食べやすい形にカスタマイズすることもできる。
服部:そのうち、印刷のCMYKみたいにな感じで、タンパクとビタミンと…って自由に配合できるようになるよね。
津田:カートリッジでその人に合わせた食べ物をつくるという方向もありますね。
二宮:肉が嗜好品になってきますね。
津田:ほんとにそうだと思います。
|瀬戸内の味をさがそう
服部:ミクロな話をしていくと面白いんやけど、地域の話に戻すと、神山町の食の本*があったじゃないですか。神山町ではそれをどう読み解いてるんですか。
*1978年刊行された書籍『神山の味』。地元で受け継がれてきた料理のレシピを集めたもので、神山町ではここから学び進める「フードハブ・プロジェクト」が2016年から進行中
白桃:本をきっかけにプロジェクトが立ち上がりましたけど、40年前に出た本なので、その本に関わった方がまだ神山にいらっしゃるんですね。なので、まずはその人と膝突きあわせて話を聞き出して、次にそうやって読み解いたことを形にしようという段階なんですけど、やっぱり、その素材になるはずの作物がなくなってきてるんですよ。梅とかもね。だから、梅を守るところからはじめて、という順番でプロジェクトを進めている最中ですね。
津田:さっき聞いたら、料理人のジェロームさん*も神山町に来てるんですよね。ジェロームさんと京都の料理人・船越雅代さんのワークショップに参加したことがあるんですけど、その日に採れたもので即興的に料理していく、他の食材とも組み合わせていくものだったんですけど、ああいう発想でいけば、従来とは違う新しい郷土料理が生まれそうですね。
*ジェローム・ワーグさんは、カリフォルニアのオーガニックレストラン「シェ・パニーズ」で総料理長を務めていた料理人。現在は日本を拠点に活動
白桃:そうですね。まさしく『神山の味』という本も、昔から続いてる料理のパートと、当時の女性たちが考えた新しい味という二段構えの構成だったんです。さらに我々がそこに新しい神山の味を足せたらという構想を持っています。ジェロームさんの話もそうですけど、これまでの神山町にあまり料理人がいなかったんですけど、料理人が増えてくることで食材の見えかたも変わってきて、また新しい食文化が生まれそうな予感がしています。
小西:瀬戸内の海の話でいえば、方言で呼ばれる魚の名前を集めている民俗学のチームが山口にいて。魚によって漁法が違うし、使う網だって違う。見る人が見れば、同じ網でもどういった海の地形で使われてるものかもわかるんですね。魚の呼び方ひとつとってみても、その周りにある漁具や料理にまで紐付いていけば文化の積み重ねが見えてくるんだと思います。
服部:今日話してきたこと、そのまま『自遊人』のネタになりそうですね。
岩佐:瀬戸内の味というテーマだと見てみたいですね。つくるのは大変そうだけど(笑)。
小西:「瀬戸内の味」という言葉の響きはわくわくしますね。海外の人はテロワールという言葉を使いますけど、じゃあ、瀬戸内のテロワールはどう定義するんだろう…少なくとも都道府県単位ではないですよね。たとえば、愛媛と広島の酒蔵は同じような軟水を使っていて、非常にちかしいものがあったりしますし。
二宮:愛媛の僕らの周りにも、広島で勉強して戻ってきたという杜氏さんが結構いますね。
小西:岩佐さんは外からご覧になって、瀬戸内の味ってどう見えてますか。
岩佐:ごく個人的なことで思い出すのは、子どもの頃に親戚が福山にいて、生きたシャコを大量に買ってきて、茹でて、剥いて、ひたすら食べたという記憶(笑)。あれはうまかったなぁ。
小西:シャコ! その共通体験も私が子どもだった頃くらいまでかな。いまはシャコも穫れなくて、高級魚になっちゃったから。
岩佐:お祭りではどんな料理が出てくるのか。冠婚葬祭も含めてですけど、そういう場の料理に期待しますよね。島ごとに違うのかな、とか。
小西:それでいえば、地域によって鯛の使い方は変わります。姿焼きがメジャーですけど、炊き込むところもあれば、漬け丼にするところも。
二宮:愛媛の中でも全然違いますね。
服部:淡路島でも鯛そうめんがおいしいよね。揚げた鯛をつゆに入れたのもある。
岩本:関西で食べてるよりも小さな鯛を日常的に食べてるイメージがありますね、四国とかだと。
二宮:こっちだと、大きな漆の皿に鯛をのせて、その周りに丸めたそうめんが置いてある。それを取り分けるための木皿が100枚くらいあって、食べた後にそれをみんなで洗って拭いて片付けるというのが、僕の思い出です。
服部:『自遊人』で瀬戸内の鯛料理図鑑をやりましょうよ(笑)。
小西:私が瀬戸内を行ったり来たりしながら感じているのは、食材もそうですけど、基礎調味料の味も地域によって全然違うんです。どこに行っても必ず醤油、塩、味噌を買って帰るんですけど、いちばん味が違うのが醤油で。
岩佐:それでいうと、西日本の醤油はちょっと真面目につくりなおしたほうがいいですね。小豆島とか、一部ではちゃんとつくられてますけど、戦後に開発された新式醸造の醤油が多いじゃないですか。あの甘さはもともとの醤油の甘さじゃない。あまり言うと西日本の人に怒られちゃうけど。
津田:山口の醤油も甘いですね。
岩佐:その甘い醤油がどんどん東へ進出してきてるんですよ。これは新式醸造の醤油だってわかって使うんだったらいいですよ。B級グルメとかと一緒で、それも戦後に生まれた食文化のひとつ。だけど、本醸造のものと新式醸造とを一緒にするとわけがわからなくなっちゃう。
服部:B級醤油と呼ばなあかん(笑)。
小西:魚醤をつくってる地域はどれくらいあるんでしょう。香川は何か所かあるんですよ。
二宮:徳島にもありますね。
岩佐:昔はどこの地域にも魚醤はあったはずなんですよ。魚醤を取り戻すのもいいと思います。
津田:香川の小豆島でいいのは、県の発酵食品研究所があって、そこで研究や開発をしながら小豆島の醤油産業も支えてるんです。僕も2週間ほど使わせてもらったことがありますけど、そういう施設の存在も大きいですよね。
服部:本にしたり、言語化して残したり考えることと、バイオのようなミクロな方向から見ていくのと、瀬戸内文化圏はそのパラレルな目でやっていきたいね。